CLASSIC
STORY
伝統工芸×海外デザイナーが生み出す新たな可能性
2023.11.30
Makino Urushi Designでは、2020年に京都中央信用金庫の海外販路開拓支援事業「Inspiration of Kyoto」に参加したことをきっかけに、フランス人デザイナーGarnier & Linkerと出会い、これまでに花器やキャビネット・コンソールなど、数々の家具やインテリアオブジェ製品を共に生み出してきました。Makino Urushi Designの海外進出の第一歩から共に歩んできたGanier&Linkerと、牧野漆工芸の次期4代目の牧野昂太が対談。伝統工芸と海外デザイナーとのコラボレーションの意義について語ります。
Garnier & Linker
Guillaume Garnier(ギオム・ガルニエ)とFlorent Linker(フロー・リンカー)の2人から成るパリのデザインスタジオ。Guillaumeはフランスの一流ビジネススクールであるエセックビジネススクールを卒業後、インテリアとプロダクトデザインの道に進むため、エコール・カモンド装飾芸術学院に入学。そこでFlorentと出会い、卒業後、2人は大手デザイン事務所で特定顧客向けの家具や照明の意匠設計を担当。
その後2人で独立し、建築と装飾に特化した家具デザインコンサルティング兼制作工房としてビジネスを発展させてきた。デザイナーと職人の架け橋となり、普遍的でありながらドラマチックな雰囲気、匠の技を感じさせるものづくりを目指している。
―出会い
牧野:「Inspiration of Kyoto」で初めてフランスの展示会に出展することになり、最初はとにかく自信がありませんでした。これまでの神社仏閣に関わる仕事にはたしかな自信を持って取り組んでいましたが、インテリアに関しては全くの未経験です。この新しい分野で私たちの作るものがどのような評価を受けるのか、想像もできませんでした。そんな中Garnier & Linkerの二人に出会い、自信をつけるきっかけをもらいました。
今でも、二人から提案してもらうデザインに対して、私たちがそれに応えようと試行錯誤を繰り返すことで、毎回自信を高めることができています。これからも二人と向き合い、新しいことにもチャレンジしていきたいと思います。
Florent:牧野さんと出会う前から、多少は漆について知識がありましたが、ここまでポテンシャルのある素材だということは知りませんでした。牧野さんから漆についてたくさんのことを学ばせてもらい、いつもまるでこの工房の職人の皆さんと一緒に遊んでいるように、異なる技術を取り入れてみたり色を変えてみたりしながら、今までこの世界に存在しなかった新しい仕上げを作り出すことができるんです。私たちはとても良いパートナー関係を築けていると思います。
牧野さんはいつも私たちが理解できるよう時間を掛けて漆のことを説明してくれて、私たちのデザインを実現するために様々な方法を試してみてくれるので、私たちも牧野さんやこの工房の職人の皆さんのことを信頼して取り組むことができます。漆を使ってこのような表現ができる工房は世界的に見てもとても珍しく、Makino Urushi Designを通して新しい表現を探求できることは、とても貴重な経験だと思っています。
―Makino Urushi Designの魅力
Guillaume:西洋にもlacquer(ラッカー)と呼ばれる、車の塗装などに用いられる化学塗料はありますが、Makino Urushi Designのlacquer(漆)がこれと全く違うのは、自然素材だということです。自然素材であること、伝統的な技術であること、どの側面をとっても、西洋のラッカーとは全く異なります。西洋人は漆に馴染みがないので、鏡面のような完璧な漆仕上げを見ても、それが化学塗料なのか、天然素材なのかはわかりません。しかしMakino Urushi Designの仕上げは、敢えて人の手で作られたことが感じられる風合いで、自然素材を使っているので必ずしも思い描いた通りに完成するとは限りません。そこがMakino Urushi Designが扱う漆の最大の魅力だと思います。
―Makino Urushi Designの今後の展望
牧野:これまでもGarnier&Linkerの二人からもらったデザインに対して、どうすれば漆を使って表現することができるのかを考え、試行錯誤しながら取り組んできましたが、これからはもっと難しい技術を要するような作品にも積極的に取り組んでいきたいと思います。そうすることで、京都の伝統工芸を担う1社が、海外のデザイナーとコラボレーションしながら、世界から評価される仕事をしていることを若い世代に知ってもらい、伝統工芸や漆にもまだまだ可能性があることを感じてほしいんです。
Florent:Makino Urushi Designとの協業で面白いと感じていることは、取り組めば取り組むほど互いの理解が深まり、Makino Urushi Designの漆の表現もどんどん豊かになっていくということです。
手作業であるが故に最終商品の価格は高額になってしまいがちですが、これを購入するお客様にとっては、日本で4代続く小さな漆工房が、時間をかけて手仕事で制作しているという背景のストーリーを知ることで、単に購買意欲を満たすだけでなく、この工房の未来に貢献しているという別の喜びを感じてもらうこともできるんです。だからこそ、お客様とMakino Urushi Designの間に立つ私たちにとっても、出来上がった製品の背後にある素材、技術、歴史といったストーリーを知るということはとても重要です。単に仕事を発注するだけでなく、理念にまで共感できる関係を築けていることはとても貴重なことなんです。
Guillaume:漆などの手作業で作られる作品は決して安くはないので、私たちはその素材の魅力を最大限に引き出し、他にはないユニークな作品であると一目でわかるよう常に心がけてデザインしています。Makino Urushi Designとこれからも長く付き合っていくことで、私たちはより深く漆のことを理解し、より「漆らしい表現とは何か」を模索していきたいと思っています。例えば、これまで私たちが手掛ける作品は直線的なラインの作品が多かったのですが、最近ではカーブが付いたデザインの方が漆の反射をより美しく魅せることができるということに気が付きました。漆を単なる表面の仕上げと捉えるのではなく、漆自体の魅力をより引き出せるような、漆のためのコレクションをこれからも作っていきたいと思います。